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カフェadd knot 代表 杉尾しのぶさんが描く、逆境と希望の交差点
「辛いと思ったことは、一度もないんです。」
そう語る杉尾しのぶさんは、大阪・豊中の倉庫街にきれいな空色の扉を構える人気カフェ「add knot(アドノット)」のオーナーだ。
どこか異国のような洗練された空間と、滋味深いおばんざいランチや山形食材を使ったスイーツの数々は、特に女性客に愛され、インスタグラムのフォロワーは1万人を超える。
その穏やかな笑顔の裏に、どれほどの山を越えてきたのか――。話を聞いていくと、人生の苦みも酸味も、やがて“旨味”に変えてしまう、しのぶさんらしい生き方が見えてきた。
17歳、娘と出会い、人生が動き出した
「17歳で長女を産んだとき、覚悟というより、嬉しさの方が大きかったですね」
10代で母となったしのぶさん。そして、女手一つで6人の娘を育ててきた。
そのうち1人は、先天性の障がいを抱えている。
「病気も障がいも、“違い”であって、“不幸”じゃない。みんなが元気に今日を過ごせるように、その日その日を工夫して、笑っていれば、何とかなるものですよ」
母としての強さと、しなやかな感性は、add knot の接客やメニューづくりにもにじんでいる。
カフェに込めた「身体に優しい」想い
店で提供するのは、地元・山形から直送される卵、肉、季節の野菜、無添加の調味料などを使った「おばんざいランチ」や、卵かけご飯、そしてふわりと甘いスイーツの数々。
背景には、家族の病をきっかけに見つめ直した「食」の意味がある。


「母は若くして癌で亡くなり、父も癌を経験しました。でも私はそこから“食”を研究しはじめて、“身体にいいものを、ちゃんと選ぶ”という視点が当たり前になったんです」
人気カフェの経営も山あり谷あり
現在、杉尾さんが抱えるのは20名以上のスタッフ。だが、決して順風満帆だったわけではない。
経営の初期から、負の遺産とも言える問題を抱えてしまい、現在もその整理と再構築に奮闘している。
「悔しい思いもあったけど、それでも毎日楽しい。人が好きなんですよ、私は」
あくまでも前向きで、どんな逆境でも「楽しく頑張れてしまう」しのぶさん。今では、スタッフと共に経営改善に向けて試行錯誤を重ねながら、新たな挑戦にも着手しようとしている。
次なる挑戦は、「カフェを支える人を、支えること」
その一つが、今まさに構想中のカフェ経営コンサルティング事業だ。
「私が経験してきたことが、次の誰かの助けになるなら嬉しい」と語るしのぶさん。
「カフェって、夢や感性だけで成り立つように思われがちだけど、実は“仕組み”がとても大切。でも、仕組みだけでもうまくいかない。だから、“自分らしさ”と“継続性”の両立が必要なんです」
自身の店舗運営や人財マネジメント、地域との関わり方までをコンテンツ化し、開業前の人や経営に悩むカフェオーナーに向けて届けていく予定だ。
しんどさのなかに、希望のタネがある
「たぶん私は、“しんどかった”と思う前に、やることがいっぱいあるタイプなんでしょうね。それに負けず嫌いだし。育児も、介護も、経営も。人生は忙しいけど、全部が楽しい」
そう言って笑うしのぶさんのまなざしの先には、いつも「人」がある。
スタッフ、お客さま、家族、そして未来のカフェオーナーたち。
誰かと、なにかを「結ぶ(=knot)」場所としてのカフェ。
そこには、しのぶさんの人生そのものが、美しいかたちで編み込まれている(=add)。
しのぶさんは、波瀾万丈という言葉を微笑みで軽やかに飛び越える。
「苦しかったことなんて、特にないんです」と言いながら、目の前の人の話にじっと耳を傾ける姿は、どんな経営指南よりも雄弁だ。
“カフェ”はしのぶさんにとって、生きる手段ではなく、生きてきた証なのだと思う。
店舗情報
• 住所:大阪府豊中市利倉1-13-20
• 電話:06-7161-7708
• 営業時間:8:00-22:00
• 定休日:不定休
• 駐車場:あり6台(無料)
• 公式サイト:https://addknot.com/
• インスタグラム:https://www.instagram.com/add.knot/