コラム-経営コンサルティング、COO代行、人材育成- 守破離コンサルティング

コラム
2025.5.31 コンサルの取り組み方

書くことで学び直す──父から受け継いだ「思考のバトン」

自分自身のリスキリング

「お前も本を書いてみろ。それは売れなくても良い。書くことで学び直しになるから。」
そう言ったのは、私の父。
今から20年ほど前、私がコマツで初めて管理職になった頃。
リスキリングという言葉が今のように話題になる、ずいぶん前のことです。

父は1969年に一冊のビジネス書を著しました。
池田民雄『大蔵省証券局―証券官僚の意識と行動』(財経詳報社)。
当時の若手官僚の“教科書”にもなり、7,000部ほど売れたそうです。

私はその「学び直しになる」との言葉に背中を押されました。
7年ほど前から、会社勤めをしながらスキマ時間に少しずつ書き溜め、なんとか書き上げました。
結果として、ありがたいことに初版は完売し、Amazonでも高い評価をいただいています。
ですが、父が言ってくれたように、「売れること」ではなく「書くこと」にこそ、本質があったのだと今では実感しています。

知識の再構築

書くことは、思考を深め、自らの経験を問い直し、知識を再構築する行為です。
文章にする過程で曖昧だった知識は明確になり、過去の出来事は意味を持ち直します。
それはまさに、現代で注目されている「リスキリング(学び直し)」そのものだったのです。

執筆の過程では、現在のコンサルティングビジネスにおける自分自身の立ち位置や強みを改めて確認し、整理することができました。
「教える」という仕事をしている私自身が、「学び直す」という視点を持てたことで、より本質に迫る提案や問いかけができるようになったと思います。

親孝行

何よりも、父がとても喜んでくれました。

父は高齢となり、認知症もだいぶ進んでしまいました。
かつては精力的に働いていた父の姿と、今の静かに過ごす父の姿。
その両方が、私にとっての「人生の現実」を教えてくれます。
そんな父が、私の本を手に取り、表紙を何度も撫でながら「すごいなあ」とつぶやいてくれたとき、私は胸がいっぱいになりました。
記憶が曖昧になっても、その瞬間の感情は確かに伝わってきました。

水平思考とは何か

水平思考とは、固定観念や既成概念にとらわれず、多角的な視点から物事を捉え、新しい発想やアイデアを生み出す思考法です。

父から受け継いだ「書くこと」「学び直すこと」「思考すること」。
これこそ水平思考であり、それは一過性のスキルではなく、生き方そのものとも言えるでしょう。
何かを一から学び直す。それは過去に捉われず、柔らかく未来を見つめる力なのです。

この出版は、私のためのリスキリングであり、父との対話でもありました。
ページを重ねるごとに、自分自身がアップデートされ、父と対話し直している感覚がありました。
そしてそれは、人生100年時代における学びの在り方、まさに「守破離」の精神そのものではないでしょうか。

どんなに時代が変わっても、人が人から学び、誰かの言葉で人生が変わるという本質は変わらない。
そう、父が教えてくれましたような気がします。

「書くこと」は、ときに人生そのものを映し出し、誰かに伝える以上に、自分自身と深く対話する行為なのでしょう。
https://shuhari-biz.com/column/development/2024-03-11/183/

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